ノリクラ 雪渓カレンダー
 
Vol.5(2012/06/09〜10) D

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(Update:2012/06/14)

 

【剣ヶ峰〜蚕玉岳】

こちらは剣ヶ峰〜蚕玉岳(こだまだけ)稜線。

 

先週の蚕玉岳山頂付近
ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.4(2012/06/02〜03) D
今週の蚕玉岳山頂付近
一週間の雪解けは高さ50センチ、横方向3メートル

この一週間の雪解けは高さ50センチほど。左の先週の画像で、積雪と地面の境界が画像の左側にあります。右の今週の画像では、画像の中央部分にザックとストックが置いてありますが、そこが先週の境界付近です。その位置から今週の境界部分は高さで50センチ、横方向には3メートルほど移動していることがわかります。

雪解けスピードとしては、ほぼ例年並みで、2008年以降では最も多い積雪量です。また、それまで最も多かった2007年は、同一週の取材が悪天候でできませんでしたが、前後の週の画像と今回の画像を比較すると、今週は2007年よりも多いことが推定され、2007年以降の過去5年間で最も多い状態と言えます。

 

蚕玉岳山頂 − 荷物をデポして剣ヶ 峰へ 戻ってきたら滑走準備

さて、先ほどの画像でもお分かりのとおり、蚕玉岳山頂にはたくさんの荷物が置いてあります。ここに荷物を置いてすぐ隣の剣ヶ峰山頂まで登っていったスキーヤー・ボーダーの方々のものです。

そして、剣ヶ峰から戻ってきたら、ここから滑走の準備に取り掛かります。

 

シールを剥がして収納

ボードの方はスノーシューをザックに、そして、スキーの方はシールを剥がすところから準備が始まります。そして、左のスキーヤーもシールを剥がしているところですが、ちょっとシールの収納に手間取っている模様...

 

イージースキンセーバー − 最初に腕カバーのように腕に通してから使用します

通常、シールの収納はグルー面(接着面)がくっつかないように、メッシュ状のチートシート(スキンセーバー)と呼ばれるものに貼り付けます。シールを二つ折りにしてチートシートの両面に貼り付けるにしても、スキー板の半分の長さが必要で、強風・吹雪の中ではチートシートが風に流されてしまう恐れがあります。そのため、悪天候時でもスムーズに収納できるのが特徴である「イージースキンセーバー」という長さ40センチほどの袋状になった商品があります。

一生懸命、筒のなかにシールの先端を入れようとされていますが、「一旦、腕カバーのように自分の腕にはめてから使うんですよ...」と、お伝えすると、「あぁ〜、なるほど、こうやって使うんですか!」

 

シールで登ってくるのが今回で2回目 みんなそろって...

シールで登ってくるのが今回で2回目とのこと。「知らないことって結構あるんですね、勉強になりました...」と、おっしゃってくださいました。新たな発見がさらに多くのことを教えてくれるものだと感じます。

真冬と異なり、この時期の雪はかなり汚れています。そのため、注意してシールを扱っていてもグルー面が汚染されて、粘着力が低下する要因となります。気温の高いこの時期は、粘着力の低下はあまり気になりません。しかし、その状態で保管したシールを次のウインターシーズンに使おうとしても、スキーー板に全く張り付かないということになってしまいます。グルー面の糊は全面張替え可能ですので、チャレンジしてみるのもよいでしょう。

 

ようやく雲が抜け始めてきた

今日は天候の回復が遅く、お昼を過ぎてからようやく山麓方面の雲が抜け始めました。

 

蚕玉岳山頂からの尾根部分で雪解けが目立つ状態(左端) でも横幅135メートル−先週と変わらず大きなスケール感

それでは、ここからは稜線からの滑走バーンの様子をお伝えします。左画像の左端とおり、蚕玉岳山頂からの尾根部分で雪解けが目立つ状態です。それでも稜線の横幅は135メートルと、十分余裕のあるコンディションです。

 

積雪の多かった2007年の位ヶ原(同一週の一週前)
2007ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.4(2007/06/02〜03) E
今週の位ヶ原
2007年以降最も多い積雪量
積雪の多かった2007年の剣ヶ峰直下の岩(同一週の一週前)
2007ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.4(2007/06/02〜03) E
今週の剣ヶ峰直下の岩
007年以降最も多い積雪量

上段は稜線から滑り降りたところから見る位ヶ原、下段の剣ヶ峰直下の岩付近の様子です。過去5年間で最も積雪量の多かった2007年の画像と比較します。ただし、このページの冒頭でもお伝えしたように、2007年の同一週は悪天候で取材できませんでしたので、ご覧いただく画像は一週間前のものです。それと今週の画像を比較しても遜色ない積雪量ですから、2007年以降の過去5年間で、最も多い状態であることがわかります。

 

柔らかい雪質

雪質は柔らかく、それでいても綺麗にカービングしようとすれば可能なバーンコンディションです。

 

3分の1地点 分断箇所(斜面から緩斜面へ)

稜線から県道乗鞍岳線との合流地点までの区間を3分の1程度滑走したところ。急斜面から緩斜面に変化する部分です。雪解けが進んで6月中下旬ごろになるとこの付近は左右から岩場やハイマツ帯が延びて来て滑走エリアが上部と下部に分断されて滑走できなくなります。

先週と同様、どこに分断箇所があるかすらわからない状態です。稜線からスタートして、車道に突き当たるまでの滑走エリアの中で最も横幅が狭い箇所ですが、まだ50メートルの横幅があります。

 

緩斜面付近の左右のハイマツ帯−緑の絨毯が美しい時期を迎える

先ほどの画像が最も横幅の狭いところの右端から撮影したもので、こちらは左端のハイマツ帯。このハイマツの帯に厚みが感じられ、緑の絨毯が美しい時期を迎え始めています。

 

天候が回復してようやく青空が広がるようになって来ました。

オープンバーンに自由自在なターン 滑走するスキーヤー − 雷鳥が見つめる

広大なオープンバーンに自由自在なターンを描きます。そんなスキーヤーの姿をハイマツの影から眺めているのは雷鳥...

 

自然へのヒトの行動をつぶさに見ているのかもしれません

なかなか姿をあらわすことのない雷鳥が出現すると、ものめずらしさに人々は注目しますが、もしかすると、人々の行動の一部始終を、岩陰からつぶさに観察しているのかもしれません。

 

唐草模様が綺麗な時期 この眺めを楽しめるのは、稜線に到達できる者に限られる

ハイマツの緑と雪の白。ちょうどこの時期は見事な唐草模様が綺麗な時期です。しかし、この唐草模様を楽めるのは、稜線まで到達できる者だけに限られます。

 

全景

先週と比べると、剣ヶ峰よりも南側(左側)でハイマツの分布がはっきりしてきました。それでも例年以上の積雪量が続いています。

 

県道乗鞍岳線

稜線から約1kmほど滑り降りると県道乗鞍岳線と合流します。

 

切り通しは3.7メートル − 2007年に次ぐ積雪量

切り通しの高さは先週から50センチ減少して3.7メートル。2011年は2メートル、2010年は2.5メートル、2009年は「2.7メートル、2008年は2.5メートル。2007年は同一週の取材はできませんでしたが、その一週間後で3.5メートルでしたので、おそらく過去5年間の中で、2007年に次ぐ積雪量であると言えます。

 

【春山バスの通る雪の壁】

雪の壁 − 現在は標高2500メートル以上の位ヶ原で楽しめる

この時期の乗鞍岳春山バスの車窓から雪の壁が楽しめるのは、位ヶ原山荘を出て、標高2500メートルより上部の位ヶ原です。

 

春山バス車窓の中で最も高い雪の壁(4号カーブ) − 現在の高さは8メートル

こちらは大雪渓・肩の小屋口バス停の手前500メートル付近にある4号カーブ。最も雪の壁が高い箇所です。現在の高さは8メートルです。

 

4号カーブの内側はホールケーキ

4号カーブはヘアピンカーブになっていて、その内側にはご覧のようなホールケーキのような形を残しています。

 

ホールケーキを回って走る
第5回 乗鞍天空マラソン(2010/06/19〜20) B
7月以降はヒルクライマーが押し寄せる
2008ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.12(2008/08/02〜03) E

毎年、6月には冬季閉鎖中の県道乗鞍岳線を利用して、乗鞍天空マラソンが開催されます。左の画像のように、ホールケーキを取り巻くように駆け上がる選手の姿が見られます。また、7月以降は冬季閉鎖が解除され、多くのヒルクライマーが訪れます。7月上〜中旬頃まではこの付近にもまだ残雪がみられるはずです。

今年の乗鞍天空マラソンは6月24日(日)に開催されます。大会当日は乗鞍岳春山バスは全3便が運休となりますので、ご注意ください。また、岐阜県側の乗鞍スカイラインシャトルバスは、通常通りの運行ですので、大雪渓・山頂方面にお越しの方は、岐阜県側からの入山が必要となります。

春山バスの車窓からの雪の壁はまだまだ楽しめます。そして、7月に入ると一日三便の春山バスに代わって、毎時一便運行されるシャトルバスが始まります。7月に入っても7月上旬〜中旬頃までは、4号カーブ付近の雪の壁を見ることができると思います。今年のシャトルバスは運行ダイヤが一部変更されています。運行ダイヤの詳細については、お知らせ − 2012シーズン 長野県側県道乗鞍岳線(エコーライン)シャトルバスの運行ダイヤ変更について(2012/06/09) をご覧ください。

4号カーブまでは、乗鞍岳春山バスの到着した大雪渓・肩の小屋口バス停から500メートルほどですから、歩いて見に行かれることをお勧めします。4号カーブの位置は、ノリクラガイドマップ県道乗鞍岳線カーブ番号版 でご確認ください。

 

【昨年の今ごろは?】

2011ノリクラ 雪渓カレンダー Vol.5(2011/06/11〜12) @

梅雨前線の動き一つで、コロコロと変えられてしまう天候に、翻弄されながらの週末となりました。

6月11日(土)は、昨晩からの雨が降り続く朝を迎えます。そして、雨に伴って濃霧も立ち込めるようになり、今日は生憎の天候の一日がスタートします。しかし、この雨も午前中には完全に止んで、ウェアーが乾き始めるようになります。ただ、濃霧のほうは一向に回復する兆しを見せず、今日は全く周囲の光景を見ることなく一日が終わろうとした頃になって、ようやく視界が開け始め、もう少し早く天候が回復してくれたらと、ちょっと悔しい思いの残る一日でした。

そして、6月12日(日)は、曇り空でしたが、昨日とは異なって視界のはっきりした天候。暑くもなく寒くもない状況でした。梅雨の時期としてはこの天候を見逃すわけには行かず、スキーヤー・ボーダーの方々がたくさん訪れ、春山バスの第一便は4台が運行されました。そして、いつものように稜線目指して、大雪渓を一斉に登る姿がありました。

 

<編集後記>

「鳴かないウサギ − 雷鳥」

先日、NHKラジオ第一放送で、雷鳥研究の第一人者である信州大学 特任教授の中村 浩志先生が、7月に長野県松本市で開催される第12回国際ライチョウシンポジウムに当たり、開催に至る経緯と日本の雷鳥の特徴などについて語っていらっしゃいました。今回はその内容をお伝えしたいと思います。なお、文脈などは当方でアレンジしております。

雷鳥はキジ科の仲間で海外では狩猟の対象になっています。そのため、ヒトを見つけるとすぐに逃げてしまいますが、日本の雷鳥は逃げません。それは日本では古くから稲作文化が根付いていて、水源となる奥山には手をつけない(立ち入らない)という習慣ができていました。奥山は神の山であり、そこに生息する雷鳥は神の鳥として重んじられてきました。

今から7年前のフランスでのシンポジウムで、そのことについて「日本の雷鳥はヒトを見ても恐れて逃げることはなく、日本文化では野生と人間が共存しながら生きて来たことが背景にある。」と、発表したところ、海外の多くの研究者から驚きの声が上がり、3年後のカナダのシンポジウムの次は、松本で開催するはこびとなりました。当初は2011年に開催予定でしたが、震災の影響から翌年の2012年に延期されました。

30年前、羽田先生(中村先生の恩師)と一緒に行った調査では、国内に3000羽の雷鳥が存在していましたが、現在では2000羽に減少しています。その原因は下記が考えられます。

@ 人間が奥山(高山)へ多く入り込むようになった。
A 本来、里山にいる野生動物が高山に侵入している。その代表格がシカで、雷鳥のえさである高山植物を食べつくしてしまう。また、キツネ・テンといった肉食系の動物が雷鳥を狙うことも問題である。
B 温暖化。

日本の雷鳥は氷河期以来住み着いていて、日本文化によって守られてきました。雷鳥と向き合う意味は、かつて日本文化が持っていた自然と共存した生き方に見直す必要があると考えられます。

最後に解説員の方が、雷鳥の学名の由来についてコメントされていました。その内容を正確に聞き取ることができませんでしたが、雷鳥の学名をそのまま略すと「だんまりウサギの足」。つまり「鳴かないウサギ」という意味になります。そして、コメントの最後に、「声高に環境保護を訴えるのではなく、雷鳥のように「物言わぬ生物」が静かに語る必要がある..」という趣旨の締めくくりには、感慨深いものを覚えました。

国内の雷鳥が減少する中、乗鞍岳においては、2003年の120羽から2008年には170羽へと増加していることが、中村先生の調査で発表されました。2003年はちょうどマイカー規制が実施された年で、マイカー規制による影響と、それ以前から実施されている登山道以外の立ち入り禁止措置による植生回復が要因であると分析されています。

4ページ目の【稜線へ】のコーナーで、大雪渓から稜線 のセクションのところでも申し上げたように、多くのヒトが立ち入ることは植生への影響が大きいと考えられます。また、5ページ目の【剣ヶ峰〜蚕玉岳】のコーナーの 雷鳥 のように、あなたの行動の一部始終を雷鳥が黙って見つめ続けているかもしれません。

 

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